日本の労働者賃金が上がらなかったのは「経営者の無策」によると指摘する(高岡浩三氏)
世間の注目を集めたフジテレビ問題が改めて浮き彫りにしたのは、事業を変革して利益を生み続け、かつ従業員と株主の利益を守る「プロ経営者の不在」という、多くの日本企業に共通する課題だったのではないか──。元ネスレ日本社長の高岡浩三氏は、バブル崩壊後に日本経済が低迷した理由を、「レベルアップを怠った経営者」「デジタル化の遅れ」と指摘する。フリーライターの池田道大氏が聞いた。【全5回の最終回。第1回から読む】
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中居正広氏の女性問題をきっかけに、経営陣の責任問題にまで発展したフジテレビ問題の本質は、ガバナンス機能の欠如にある。それはフジテレビに限った問題ではなく、日本企業が抱える宿痾だ。そもそも日本企業の躍進を支えたのは経営者ではなく、労働力なのだ——元ネスレ日本社長の高岡浩三氏はそう強調する。
「日本が戦後の焼け野原から、世界第2位の経済大国にのし上がる原動力になったのは、経営者ではなく労働者でした。しかもその労働力が毎年100万人ずつ増えて、戦後50年間で5000万人に達しました。1940年代に7500万人だった人口が1億2500万人まで増加する時代はモノを作れば売れるので、誰が社長をやっても日本は成長した。だからこそ、1人で社長を10年やったら不公平ということで任期を設けて“交代制”にしたんです」(高岡氏・以下同)
欧米に追いつけ、追い越せで成長を続けた日本経済の転換期は1990年代前半のバブル崩壊だ。この時期、経営者は自らのレベルアップを図るべきだったと高岡氏は言う。
「労働者の給料が欧米に追いついて(先進国に対する)競争力がなくなった時点で、日本の経営者は襟を正して自分たちのレベルを上げなければならないことに気づくべきでした。
ところが彼らは自分たちが偉いと思い込み、その後も経営を30年続けた結果、利益率は低いままで、社員の働きに給料で応えることができなかった。それなのに己の給料だけ上げて、この期間に役員報酬だけは数倍になっています。
何より腹立たしいのは、ただ内部留保だけを積み上げたこと。僕の試算では600兆円の内部留保のうち30兆〜40兆円を社員の給料に回していたら、大企業の社員なら年収が平均1000万円くらいになっていました。でも今は650万円とか700万円でしょう。これでは、どないもできないですよ。いまの物価高だったら、10%のベースアップを10年以上続けないと欧米並みの生活になりません。5%くらいでは話になりません」