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田代尚機のチャイナ・リサーチ

エヌビディアの株価下落の背景にある“AI革命の現在地” 市場の関心はGPU需要からAI実装局面へ、中国も人型ロボット開発で攻勢を強める

ダンスを踊る人型ロボット(宇樹科技ホームページより)

ダンスを踊る人型ロボット(宇樹科技ホームページより)

人型ロボットは運動能力も人類の上位数%レベルに

 別の切り口からみると、AIはスマホ・PC、家電製品などへの実装から始まり、スマート自動車・低空経済(ドローン)、人型ロボットへと浸透していき、この順で市場規模は大きくなる。スマート自動車では米中は既に無人運転タクシーの試験運転を進めており、ドローン、空飛ぶ自動車へとその発展の方向性がはっきりと見えている。こうした分野に続き、人型ロボットが今後、AI開発の主戦場となるだろう。

 人間で言うところの大脳に当たる部分は既に実用化に耐えるレベルに達しているが、小脳に当たる部分でも一般人の能力を超える人型ロボットが登場し始めた。たとえば、今年の春節聯歓晩会で歌謡ダンスを披露した宇樹科技の人型ロボットだが、“トレーニングの成果”は目覚ましい。2月25日には2回転回し蹴り、3月19日には助走なしでの側宙を成功させる映像が公開されている。最先端の人型AIロボットは、一部の運動能力でも既に人類の上位数%のレベルに達している。

 ロボットが人間に代わって、人間以上に高い質、安いコストの労働力を提供する時代はいつごろ訪れるのだろうか。

 大脳部分、小脳部分については足元で急速な進化を遂げている。後者について補足しておくと、センサー、仮想現実技術の進化が特に運動トレーニング効率を飛躍的に高めているようだ。ボディに当たるハードウエアだが、コアとなる部品は減速機、センサー、AIチップや、サーボモーター、遊星ローラースクリューなどのアクチュエータ全般といったところだが実用化に向けて、素材を含め更なる軽量化を進める必要がありそうだ。

中国の人型ロボット技術が、日米欧の強力なライバルに

 ゴールドマンサックスは、2027年におけるグローバルでの人型ロボットの出荷台数は7万6000台だが、2035年には138万台に達すると予想、ドイツ銀行では2050年には7000万台を突破するなどと予想している。大きな規模だとはいえ、四半世紀経っても、人類の単純労働からの解放は完全には進まないと欧米系金融機関はみているようだ。

 しかし、スマホの導入、キャッシュレス化、エンジン車からEV車への切り替わりなど、中国社会の変化は我々の常識を覆す速さであった。同じことがAIの社会実装でも起こりかねないのではなかろうか。均普AIロボット研究院の郭継舜院長は3月7日に行われたマスコミ主催の討論会において、「今後3年の間に倉庫内の運搬や工場作業において人型ロボットの本格的な実用化が始まり、家事サービス、介護サービスの分野では5~10年の間に実用化が始まるだろう」などといった趣旨の発言をしている。

 2023年における中国の製造業GDP(名目、ドルベース、国連)は米国の1.7倍、日本の5.7倍の規模があり、産業のすそ野も広い。本土メディアによれば、人型ロボットの国産化率は90%超だそうだ。中国のEV、スマート自動車、自動運転技術などは世界最高水準に達しているが、人型ロボット開発に応用できる技術は多い。ソフトウエア、ハードウエアの総合力が求められる人型ロボットの開発において中国は、日米欧にとって強力なライバルだ。

 米国は金融大国化と引き換えに製造業の空洞化を受け入れたが、そのつけは大きい。トランプ政権がやろうとしている製造業への回帰は正しい選択なのだろうが、今更、鉄鋼、非鉄金属や、自動車産業の回帰から始めているようでは、到底間に合わないのではなかろうか。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。

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