ばあちゃんたちの智恵を活かしてビジネスを展開する大熊充氏(=右)
日本は今、高齢化が加速度的に進行すると同時に、様々な社会問題をはらんでいる。そんな中、福岡県うきは市に、2019年に設立された会社が今、国内外から注目を集めている。会社の名前は「うきはの宝」、従業員は75歳以上のおばあちゃん。目的は、地域のおばあちゃんに「収入」と「生きがい」を提供すること。
うきはの宝は、ばあちゃんたちの智恵を活かして「ばあちゃん飯」に「ばあちゃん食堂」「ばあちゃん新聞」「ユーチュー婆」など、「ばあちゃん」をキーワードにした商品を次々とヒットさせている。創業した地元出身の大熊充氏の著書『年商1億円!(目標)ばあちゃんビジネス』より、シニアビジネスで陥りがちな“思い込みの落とし穴”について紹介する。
経営者としては厳しいことも言う
高齢者には優しく、という世間的な風潮がありますが、僕に言わせると逆ですね。高齢者に忖度して一見優しくしているように思えるサービスや政策が、世の中を悪くしていっている気がしてなりません。
「年寄りだから、働くのは大変だろう」とか、単純な思い込みから高齢者をすぐ保護しようとする。この国はもうそんな余力もないのに。
本当の優しさは、厳しさ。僕はそう思います。
僕はじいちゃんやばあちゃんが好きだし、人生の先輩としてリスペクトしている。その気持ちに変わりはありません。
ただ、ビジネスというフィールドで一緒にチームを組んでプレーする以上は、厳しいと思われようと僕はリーダーとしての姿勢を示さないといけない。このデザインは古いよとか、このままじゃあ売れないよ、とか意見もするし、厳しい売上の話や消費者の声も共有して、理解してもらう。そうするうちに、ばあちゃんたちの意識も変わっていくんです。
つい先日もガリの甘酢漬けを作っていて、僕が「最低でも四十キロは仕上げないと売上が出ないかもしれないから、機械を入れようか」と言うと、ばあちゃんたちは「手でやるからいい」と猛反発。経費が高くなっているのを知っているから、手でできる工程は手でやろうと、気を使ってくれているんです。単に遠慮してるんじゃなくて、「その代わり、手作業ができない工程には機械を入れよう」と、提案も返ってくるところが頼もしい。
最初は、売上の話までするのは厳しすぎるかな、悪いかもな、と不安に感じていましたが、包み隠さず話をすることで、ちゃんと経営のことも理解してくれるようになった。信頼関係ってこうして少しずつ育っていくんでしょうね。