どんな職業にも理想と現実がある(イメージ)
「やりたいことを仕事に」「好きなことを仕事にする」――就職活動や転職活動をする際に、こうした意識を持つ人は少なくないかもしれない。だが、はたしてやりたいこと・好きなことを仕事にするのが幸せにつながる道なのだろうか。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏は「もっと大事なことがある」と実感を込めて主張する。中川氏が考える、仕事選びの肝要とは。
* * *
やりたいこと・好きなことを仕事にするのは一見幸せに感じられるかもしれませんが、やっているうちに幻滅して、結局、その仕事を嫌いになってしまうこともあります。
たとえば「旅行が好きだから」と旅行代理店に就職して添乗員になると、ツアー客の自分勝手な行動や無茶な要求に直面することになります。集合時刻を守らない、写真ばかり撮っていてはぐれてしまう、バス車内で宴会をする、添乗員を部下のように扱う……などといった、添乗員の悲鳴の声がネットにはあふれてています。
天候要因などで電車が遅延したときも文句を言われ、ツアー客にひたすら頭を下げることになる。こんなことが重なると、大好きだったはずの旅行というものへの思いも変わってしまうかもしれない。ツアー客を見るだけで不快になるし、旅館の料理を楽しもうにも「どこでコスト削減をしているのだろうか」などビジネス面で考えてしまい、純粋に旅行を楽しめなくなってしまうのです。
「広告が好きです!」といって広告会社に入ったけれど…
私自身は大学を卒業して広告会社に入りました。自分でもそれなりに広告は好きでしたが、同期には大学の広告研究会に入っていた者もおり、彼らの意欲には敵いません。「自分の書いたコピーで人々の購買欲に火を点けたい!」みたいな夢を彼らは持っていました。しかし、クリエイティブの部署に配属されるのは、60人以上いた同期の中でわずか9人。しかも、このうち3人はデザイナー採用の美大出身者です。文系・理系出身者には非常に狭き門です。
そういうわけで多くの新入社員は営業に配属されるわけですが、ここでの業務は“憧れのクリエイティブ”とは程遠いもの。若手は広告主の御用聞きのような立場となり、「自分の仕事は伝書鳩」なんて自虐的に言う者もいました。広告主の気分を害さぬように、打ち合わせの際はお茶出し等も含め最大限の配慮をする。関係性を良くすべく、接待の飲み会にも参加しなくてはならない。実際、広告が好きだった若者が「こんなはずじゃなかった」と思い直し、早々に転職を決意する人もいます。
幸運にもクリエイティブ部署に配属されたとしても、クリエイティブディレクターの言うことがすべてのため、自らのクリエイティビティをすぐに発揮するのは難しい。さらには憧れのクリエーターの人となりを知って、イメージとのギャップに苦しむこともあるのです。その後、「世の中そういうものだ」と割り切ることができれば営業・クリエイティブともに業界で活躍する道も拓けていくでしょうが、純粋に「広告が好きです!」という気持ちは口にしづらくなります。もちろん、抜群の才能を持つ人は広告を作るのが楽しくて仕方ないでしょうし、独立して多額のカネを稼げるようにもなる。