受験に苦労して入学した私立中学を退学する事情とは?(写真:イメージマート)
首都圏や大都市圏で中学受験ブームが過熱する一方、苦労して入った学校を“退学”するケースも珍しくない。フリーライターの清水典之氏が、公表データや取材をもとにレポートするシリーズ「中学受験の“不都合な真実”」。今回は、識者らへの取材をもとに、東京都の私立中学の退学者数の実態、その理由について探る。【シリーズ第3回】
■第1回記事:《「退学処分があるから私立の小・中学校はいじめや暴力が少ない」は本当か 私立と公立の「暴力」「いじめ」最新データを検証【中学受験の“不都合な真実”】》から読む
私立中の学年ごとの生徒数から退学者数を推定
「塾の生徒らに聞く限り、いじめが原因で退学になったという話はほとんど聞かない。よく話題になるのは、『盗撮』で退学になったというケースで、『女子更衣室で盗撮して自主退学させられたヤツがいる』といった話を聞くことがあります」
そう語るのは、『「中学受験」をするか迷ったら最初に知ってほしいこと』(Gakken)著者で、全国の小中学校を視察し、教育政策の提言もしている塾講師の東田高志氏だ。
昨年11月に、山梨県の私立高校の男子生徒が、修学旅行先で女湯を盗撮して問題になったという事件が報じられた。修学旅行で開放的な気分になり、ふざけて軽い気持ちで盗撮をしてしまったのかもしれないが、れっきとした犯罪なので、重い処分が待っている。
ただ、シリーズ第1回記事で述べたように、都内の私立小・中・高校で、いじめ加害が理由で退学になるケースは非常に少ない。東京都「令和5年度における都内私立学校の児童生徒の問題行動・不登校等の実態」によると、2023年度に私立校でいじめをした児童・生徒が退学・転学になったケースで、学校側が「懲戒処分としての退学」を行なったのは、小学校で0件、中学校で2件、高校で1件。自主退学を奨めるなど「その他」の対応をしたのが、小学校1件、中学校3件、高校9件だった。現実には、私立校を退学処分になる、もしくは自主的に退学するのは、ほとんどがいじめ加害とは別の理由からのようだ。
では、退学者の数はどれほどの規模なのか。公式な統計は出ていないので、東田氏が東京都に開示請求して入手したデータをもとに説明してくれた。
「私立中学校から退学になっても、公立中学校に転校できるので、私立中のなかには生徒を簡単に退学させる学校があります。その一方で、生徒がどんどん出ていく学校もある。
東京都へ開示請求して、私立中の学年ごとの生徒数の資料を入手したところ、たとえば大田区では、2018年に入学した私立の中1の生徒数は174人で、これが2年後の2020年5月に124人になっていました。この数字には転居も含まれると考えられますが、50人減っています。江東区だと、2018年の入学者が404人で、これが2年後の2020年5月に351人になっていて53人減った。東京都全体では800人ほど減っています」(東田氏)
これらの数字は、中学入学から中3の5月までに退学した生徒の人数と考えられる。