対中強硬策が中国の産業発展を進める可能性も
こうしてみると、中国やアメリカは、極端な金持ちが多いが、貧困者も多い。一方、日本は逆に極端な金持ちは少ないが、貧富の差も小さい。
日本にはアントレプレナーが少なく、急成長を遂げるイノベーション企業の数も少ない。大企業では、社長と新入社員の給与格差は小さく、また、崩れつつあるとはいえ、年功序列、終身雇用の習慣が残っており、中国、アメリカなどの諸外国と比べれば、雇用は安定している。社会主義的な組織形態とも言えるだろう。
一般に、個人主義的な自由主義を基本原理とするのが資本主義であるのに対して、平等で、公正な社会を目指すのが社会主義と言われる。しかし、社会主義国である中国では、アリババ、テンセント、バイドゥ、あるいは最近注目のファーウェイ(華為技術)をはじめ、多くのアントレプレナーがイノベーション企業を生み出しているのが現実だ。富裕層も多いが、貧困者も多く、所得の不平等も大きい。これはアメリカとよく似た社会形態である。
アメリカの対中強硬派は中国の補助金政策を非難するが、アメリカも農業に対しては厚い補助金を支給している。中国に技術移転の強制をやめさせようとしているが、中国は国家による強制は止めるとしているが、民間については、彼らの自由な経営にまで口を挟めないとしている。アメリカは、中国企業に対してスパイ行為を疑っているが、そもそもアメリカ自体が組織としてCIA(Central Intelligence Agency)を持ち、諜報(Intelligence)を行っている……。
見方によっては、米中はよく似た国家である。というよりも、中国がアメリカ流経済システムを学び、吸収した結果、よく似た国家になったのではないだろうか。ただ、大きく違う点がある。アメリカは産業発展段階の先を走っている点である。
アメリカが貿易では赤字、金融収支では黒字となっているのは、脱工業化、経済のサービス化が進展した結果であり、アメリカが、国全体として、より楽に、多額の富を得るシステムを作り上げたことによる。
トランプ大統領が貿易黒字を減らすよう中国に迫ることは、アメリカが辿ってきた産業発展の階段を早く登れと言っているのに等しい。