そもそも、現在ほど大学の数は多くなかった上に、就職に有利な“上位校”の定員は変わらない。別の年であれば合格できたであろう大学にも入れず、結果的に就職活動の時に発生する痛烈な学歴差別の壁にぶち当たった。人気企業に入れないばかりか、内定すら取れずに就職浪人の道を選んだりした者も少なくない。翌年も就職活動を続けるも、ライバルが多い上に、留年したことがハンデとなり、結局、正規雇用の仕事を得られなくなる。
自分よりも年下の正社員にアゴで使われる屈辱
過去に自殺未遂をした経験もあるという、都内在住の46歳無職男性・Aさんは自身の人生についてこう語った。彼は両親と同居している。
「工業高校に入り、板金塗装などを学んだのですが、当時の私はとても大学に入れるようなレベルではありませんでした。だから高卒で働くことになったのですが、就職活動がバブル崩壊の年だっただけに、もう企業の採用数は抑えられて始めていた。なんとか学んだことを活用できる小さな会社に入れたものの、今で言うパワハラに遭い、18歳の私には耐えられず数か月で会社を辞めました。
その後はホームセンターのバイトなどを転々とし続けたのですが、35歳ぐらいになった時、若い人達が正規雇用で会社に入れる時代になっていました。この時、正社員で入って来た若者にアゴで使われるような扱いをされ、その職場も辞めました。その後、自殺を図ったのですが、死にきれず、今はこうして親と一緒に住んでいます」
Aさんは淡々と語ったが、相当な苦労をしていたことが言葉の端々から透けて見える。Aさんのように、自分よりも年下から見下されてこき使われる構図は、定年後に再雇用された従業員などにも見られるが、そもそもの正規雇用の数を抑制された氷河期世代は、定年前から同様の扱いを受けてきたのである。
「手に職」をつけることもなく非正規で食いつなぎ、気付いたら「売り手市場」の頃に就職活動をした若い世代が出世していく様子を見てきたのが氷河期世代だ。たとえ政府が「30万人雇用」というビジョンを示しても、これまでずっと非正規で働き続けてきた人間が、いきなり正規雇用になってどんな仕事ができるのか、という問題がある。ましてや、ひきこもり状態から脱却できるのだろうか。