シンクタンク「フィデリティ退職・投資教育研究所」が退職金を受け取った男女8630人を対象に2015年に行なったアンケート調査(以下「アンケート調査」)だ。そのなかで「使い途」を聞いた質問への答えで最も多かったのは23%の「将来、生活費に使う」。先行きの見えない老後のために当面は貯金をするという消極的な選択が1位だった。僅差の2位は「ローンの返済」(21%)、3位「日々の生活費(19%)」と続く。
アンケート調査の回答でもわかるように、退職金の使い途のスタンダードは「住宅ローンの完済に充てる」という選択だ。
埼玉県の一軒家に妻と暮らす64歳の青田さん(仮名、以下同)は4年前、定年で手にした1000万円の退職金を全額、ほぼ同額のローンの残債の返済に充てた。
「子供ができたのが30代後半と遅かったので、家を買うのもそれからになり、定年退職後もローンが残ることは避けられない状況でした。退職金でスッキリしたいと決めていた」
青田さんの住宅ローンは10年間固定金利、11年目から変動金利だった。
「将来金利が上がったら年金収入が220万円程度の身には負担が重くなる。もちろん、退職金を使い切った分、まだまだ働きます。体はしっかり動くし、貯蓄はこれからまた増やせると思っています」(青田さん)
“借金”がゼロになった「スッキリ定年後」に見える。しかし、青田さんの選択は、一歩間違えば老後破産のリスクがある。