関西の国立大生・Cさんは、「コスパ」を挙げる。
「基本的にリクルートスーツは、なるべく安く済ませたい。ただ、どうせ買うなら黒のシンプルなものにしておけば、冠婚葬祭にも使えるじゃないですか。お葬式では、年配の人が多い場合などはスカートのほうが“正装”と聞くので、スカートのほうが使えそう。中途半端にリクルートスーツで個性を出そうとしたところで、どうせその後着なくなりそうだし、結果として無難なもののほうが何歳になっても着られる。メルカリなどで売るときにも、売りやすいと思います」(Cさん)
一方で、数年前にパンツスーツで就活していたというのは20代の女性会社員・Dさんだ。こんなエピソードを明かしてくれた。
「大学の先輩から『面接官はおじさんが多いから、スカートの方がいいよ。“できる女感”は求められていないから』と釘を刺されました。スカートのほうが内定をもらいやすいという都市伝説があったようです。スーツ店でも、スカートかパンツか迷っていると『社会経験のない新卒の学生さんには、フレッシュに見えるスカートをすすめている』と言われ、何か変だなと思ったのを覚えています。
結局私は着慣れているパンツという形を選びましたが、ちゃんと内定を取れました。別に目立ちたいとかではなく、自分らしくいられるのがスカートよりパンツだったというだけです」(Dさん)
“スカート推し”の背景には一体、何が隠されているのか。大月短期大学経済科兼任講師で社会心理学を専門とする川島真奈美さんは、「時代の先行き不透明さ」が影響しているのではないか、と分析する。
「かつて、就活の服装はバリエーションがありました。それが固定してきたのはバブル崩壊以降で、景気が低迷してからその傾向が顕著になりました。景気がいいときは、学生が企業を選ぶ立場で自然と個性を主張する余裕が生まれますが、景気が悪くなるとどうしても選ばれたいという受け身の心理が働くので、没個性的になる。
ただ、昨今は売り手市場。にもかかわらず画一的な装いというのは、先を読めない不安さから、“同調”の意識が過剰に働いているのかもしれません」
多様性をうたう現代だが、リクルートスーツ選びは無難になっているようだ。