近頃増えているという都市部から地方への移住。「理想の暮らし」を手に入れた当事者たちは、どのような本音を抱いているのだろうか。実際の移住者の声を聞いた。
木造2階建ての古民家の庭に紫陽花が咲き乱れ、その先に田んぼが広がる。ここは鳥取県鳥取市の中心部から車で30分ほど走った田園地帯だ。台所を含めて9部屋ある広い古民家には、川崎富美さん(39才)がひとりで住んでいる。
プロダクトデザイナーの川崎さんは1年半前に、16年間住んだ東京を離れて鳥取市へやって来た。
「東京では製造小売業に勤務して、仕事は面白かったのですが、常に時間に追われて体調不良や不眠に悩んでいました。それで思い切って会社を辞めて、故郷の鳥取にUターンすることにしました」(川崎さん・以下同)
鳥取空港近くにある実家ではなく、鳥取市が管理する空き家バンクで家を探し、現在の住居である古民家を借りた。敷金や保証金は不要で、家賃は月3万円と格安だ。
「在宅で仕事をするので広くて眺めのいい家がほしかった。水回りもきちんとしていて、30万円程度の簡単な補修で問題なく住めています。部屋数が多すぎて、使いきれていないほどです」
東京時代の知り合いのつながりやインターネットのおかげで、デザインの仕事は今も安定して続いているという。以前と比べると稼ぎは多くないが、必要な生活費が東京時代より3割減ったため、快適に暮らすことができる。
「ご近所のかたにも、とても親切にしていただいています。村人総出の草刈りや神社の催しなどが年に数回あるので、それには必ず顔を出します。そういう行動を見て、みなさんが私を受け入れてくれました。おいしいお米や野菜が採れたからと、よく持ってきてくれます。自分で買う必要がなくなりました」