定年後の暮らしにはトラブルがたくさん潜んでいる。“老後資産2000万円不足”に代表される「お金」の問題だけでなく、健康や家族関係、犯罪被害など数々のリスクが存在する。そんな時、自分を守るための最大の武器になるのが“法律”だ。
これから60代を迎える人も、すでに定年後生活に入っている人も、ちょっとした法律知識があるかどうかで、“長い老後”が天国にも地獄にもなる。
人生100年時代は定年後もなるべく長く働くのがセオリーだ。2013年に改正法が施行された高年齢者雇用安定法では、希望者に対し、原則、年金受給開始年齢の65歳まで働けるようにすることを企業に義務付けている。60歳定年時に、「65歳までの継続雇用」などの選択肢を示されなければ“不当なリストラ”といえる。
ただ、雇用は確保される一方で、明治安田生活福祉研究所の調査によると、定年後の継続雇用で、給料が定年直前の50%未満に減少している人は4割に上る。
2014年、定年後に非正規で再雇用された男性が、仕事内容が同じなのに正規雇用に比べて賃金が3割近く低いのは違法だと提訴したが(長澤運輸事件)、昨年6月に最高裁は賃金引き下げは合法との判決を下した。
だが、定年後の賃金減の補填はできる。社会保険労務士でファイナンシャルプランナーの北山茂治氏が説明する。
「雇用保険法(61条)により、いわゆる失業保険の手続きをせずに再雇用・再就職した場合は『高年齢雇用継続基本給付金』が、手続きをして再び職を得た場合は『高年齢再就職給付金』がもらえます(*注)。
定年前に比べて賃金が75%未満に下がったら最高で毎月の賃金の15%が支給されます。違いは受給期間で、『継続基本給付金』は65歳の誕生月まで、『再就職給付金』は最大2年です。手続きは勤務先の企業に申請するだけで、給付金は非課税になる」
【*注/雇用保険の被保険者期間が通算5年以上の加入歴がある60歳以上65歳未満の労働者】
例えば、60歳の定年時に月給30万円だったのが18万円(60%)に下がり、『継続基本給付金』が受け取れる場合、5年間で162万円になる。