飲食業界は2年で5割、3年で7割、10年で9割が潰れると言われる厳しい業界。味はもちろん、値段も満足で立地も良くなければ、生き延びるのは難しい。ところが東京23区内のある居酒屋は、「味も値段も平凡以下、立地は最悪」という条件にもかかわらず、すでに店は30年以上続いている。なぜそんなことが可能なのか? 謎の店「M」の客であるTさん(40代男性)がいう。
「私は3年前にMの近所に引っ越しましたが、Mに初めて入ったのは数か月前のことです。それまで近所に知り合いはいなかったのですが、娘が保育園に通うようになって“パパ友”ができ、飲みに行ったのです。
Mは最寄り駅から徒歩で20分近くかかり、住民はもっぱらバスを使う“陸の孤島”にあります。Mの周りには飲食店はおろか商店の類は一切なく、表通りにも面していません。“こんな所でよく商売になるな”と思っていたところ、パパ友も同じことを思っていたようで、『では一度Mに行ってみよう』ということになりました」
Mは味も値段も平凡極まりなかったが、店主は気のいい人で、Tさんが他所から引っ越してきた人間だと知ると、「このあたりには○○さんと△△さんという2人の大地主がいる」「○○マンションがある所は元・産廃処理場」「××(売れっ子芸人)は近所の○○中学出身」など、興味深い地元情報を次々と教えてくれた。Tさんはそういった話が聞きたくてMに通うようになったが、何度か通ううちに、店が続く理由が分かってきた。
「潰れない理由の1つは、歩いて2分ほどの所に銭湯があることです。銭湯帰りのお年寄りが立ち寄り、1~2杯飲んで帰っていくようです。大相撲の時期は、17時台は銭湯帰りのお年寄りだけで満員になることもあるそうです」
大相撲は年6回、1場所15日なので、それだけでもなかなかの売り上げだ。そのため、10人も入れば一杯の店には不相応に大きなテレビがあり、野球や相撲がつけっぱなしになっている。また通えば通うほど、居心地の良さが優れていることに気付いた。