まず企業規模要件を廃止し、中小企業も対象にすることで125万人から保険料を取れる。次に「週20時間以上勤務」の短時間労働者全体を対象にして325万人追加、最後は学生でも雇用期間1年未満でもとにかく「月5万8000円以上」の賃金収入があれば全員厚生年金に加入させ、給料から保険料を天引きする。その場合、加入者は一挙に1050万人も増える。
〈「被用者保険の適用拡大」が年金の給付水準を確保する上でプラス〉
財政検証にはそう書かれている。問題は誰にとってプラスなのかである。社会保険労務士の北山茂治氏が語る。
「第3号被保険者が厚生年金に加入してもメリットはほとんどありません。第3号のままなら保険料負担ゼロで済むが、厚生年金になれば年金の保険料だけではなく、健康保険料も自分で払わなければならない。年金が少し増えても損失の方が大きい。厚生年金に加入するならフルタイムで働いて稼ぎを大きくしないとメリットは生まれない」
パート妻が損をするということは、保険料が増える国が得するということだ。ましてや最終段階の“1050万人加入作戦”は、年金制度を破壊する行為だ。
現在の制度では、収入の有無によらず、20歳になれば国民年金に加入して月額1万6410円の保険料を払わなければならない。例外は第3号被保険者だけだ。
しかし、「月収5万8000円」のアルバイトに厚生年金加入を義務化した場合の月の年金保険料の自己負担は5307円(現行の保険料率の場合)だ。納める保険料は国民年金より安いのに、もらえる年金は多いという逆転現象が起きる可能性がある。自営業者には到底納得できない歪んだ制度設計になりかねない。年金博士こと社会保険労務士の北村庄吾氏がいう。
「厚労省は何が何でもどこからでも保険料を取って目先の年金財政を潤し、将来、そうした人たちに年金を払う段になったら、その時に新たな年金カットを考えればいい。そう考えているように思えてなりません」
※週刊ポスト2019年9月13日号