病気になった場合、高齢者は受けられる治療に“制限”が出てくるケースがある。
国立がん研究センターは、2017年4月、ステージIVの肺がん患者を抗がん剤治療の有無で生存期間を比較した結果として、〈75歳未満では明らかに抗がん剤治療ありのほうがいいが、75歳以上ではそれほど大きな差がない〉との報告を発表した。
がん薬物療法専門医で日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授の勝俣範之氏は、「この報告が“75歳以上への抗がん剤治療は意味がない”と受け取られたことで、がん治療の現場に年齢による線引きが生じた」と指摘する。
「『高齢者だから抗がん剤治療はやめたほうがいいと言われた』と、何人もの患者さんが私のところに相談に来ました。しかし実際には75歳以上でステージIVの肺がんでも、抗がん剤治療で生存期間が延びる可能性は十分にあります。
フランスの研究では、70~89歳の肺がん患者のうち、より強い併用抗がん剤を与えられたグループは、単剤の抗がん剤治療を受けたグループより生存期間が長かったという結果が出ています。それ以外にも、高齢者でも抗がん剤治療が有効とするデータは少なくない」
高齢者への抗がん剤治療は、臓器機能や合併症の有無などを考慮した多面的な評価による「生理的年齢」で判断するのが世界的な流れだと勝俣氏は言う。
※週刊ポスト2019年9月20・27日号