ところが、厚労省が用意した6つのシナリオは全部バラ色なのだ。年金には受給額に直結する重要な指標が3つある。物価上昇率、実質賃金上昇率、そして年金積立金の運用利回りだ。
たとえば、物価上昇率はこの20年間でみるとマイナス、上昇に転じた安倍内閣の6年間の平均でも0.4%にすぎない。だが、財政検証は最低でも0.5%、最高で2%上昇が前提とされていた。
実質賃金は厚労省が統計を偽装していたために正確な数字は永久に失われたが、ニッセイ基礎研究所の試算ではこの6年間の平均はマイナスとされている。それでも財政検証は全てのシナリオで賃金が上がっていくことになっている。
そして年金積立金の運用利回りは過去20年間の平均が1.62%なのに、なんと最高で5%(名目)という高い前提が置かれていた。
“この先100年間、サラリーマンの給料は右肩上がり、物価も上昇し、年金積立金は高い運用益でじゃんじゃんカネを生み出してくれる”――そんな現実と乖離した見通しに支えられているのが、厚労省の想定する年金財政の“明るい未来”なのだ。
※週刊ポスト2019年9月20・27日号