とはいえ、お弁当文化が皆無というわけではないという。
「例えば、ピクニックとかだと、おかずを持ち寄ってみんなでシェアして食べるようなことはあります。でも、お弁当用として一口サイズにしたり、彩り豊かにしたりといった工夫はありません。だから日本のアニメや漫画でよくある、運動会などでお母さんが作った豪華なお弁当をみんなで食べている光景がすごく微笑ましくて、体験したかったです。もちろん、残り物を3段弁当にただ詰めて持って行く人もいますが、そこまで一般的ではありませんし、ただ本当に“詰めているだけ”です」(Aさん)
タイ人の20代会社員・Bさんは、日本の母親が朝早くお弁当を起きて作ると聞いて、驚きを隠せない。
「私は母にお弁当を作ってもらった覚えはありません。日本の女性が、家族へのお弁当を作るために朝早く起きているのは、本当にすごい。タイだと、作ってくれるとしても、父親かお手伝いさんだと思います。タイは父親の方が料理好きな傾向が強くて、私の家庭も友人たちの家庭も料理ができるのは男性でした。私も母も料理ができません」(Bさん)
妻が夫のために作る“愛妻弁当”について話が及ぶと、Bさんは「私にはできないかな……」と言う。
「日本の女性ってすごい。キャラ弁や手の込んだものを毎日作るには、修行が必要なのではないでしょうか。私には無理。でも、確かに作ってもらったほうは愛を感じてくれるかもしれないけど、それだけが愛ではないはず。私は違うことで愛を伝えられたらいいかな」(Bさん)
日系企業で働く30代のタイ人女性・Cさんは、同僚の日本人女性が持参したお弁当に関するエピソードを語ってくれた。
「いつも日本人女性の同僚は、小さなお弁当箱を持ってきます。この間、ふとお弁当箱のなかをのぞいたときに、これで本当に足りるのかなって心配になってしまいました。だから私たちが買ってきたおかずを分けて、みなで一緒に食べました。後で彼女がダイエット中だったことを知りましたが、彼女に限らず日本人女性は小食な人が多いイメージ。見かける度に、心配になってしまいます。私にとってお弁当はダイエットという印象が強いですね」
お弁当は自炊文化のない国にはあまり実感がわきにくいものだが、日本らしさが詰まった文化であるという認識は間違いなさそうだ。