定年後の生活で夫婦の年金を考えるとき、「妻との年齢差」によって年金受給方法の損得が分かれる。その一つが「年金75歳受給」だ。社会保障審議会では年金の受給開始を75歳まで繰り下げることができる制度改革を議論し、来年の国会で改正案が成立する見込みだ。
「75歳受給なら約2倍の割り増し年金をもらえます」。厚労省は早くもそう宣伝しているが、それに釣られて、夫の年金を75歳まで繰り下げるとどうなるか。
夫の年金だけを計算すると、75歳から割り増し年金を受給する場合の手取り総額は繰り下げしないケースの総額を90歳で逆転する。
だが、その場合、泣きを見るのは「妻が年下」の夫婦だ。妻が年下の場合、妻が65歳になるまで夫の厚生年金に「年額39万100円」の加給年金が上乗せされる。しかし、夫の年金を繰り下げると、その期間は加給年金も停止される。
夫婦の年齢差が10歳であれば、本来なら夫の年金には65歳から75歳までの10年間で390万1000円の加給年金が加算されるはずなのに、10年繰り下げると1円ももらえない。「夫が90歳、妻が80歳」になっても年金総額は400万円近い損失になる。
この加給年金の特徴は、妻が働いていても、妻の年収が850万円未満であれば夫の年金に加算されて支給されることだ。
妻が年下の夫婦が老後資金を増やすためには、それを利用して、夫は65歳から年金を受給し、加給年金ももらい、年下の妻は65歳になるまで働いて収入を得る。「夫の年金」「加給年金」「妻の収入」のトリプルインカムをめざすのが賢い年金受給と妻の働き方の組み合わせといえそうだ。