同様の“認知のゆがみ”は、社会の至る所に見受けられる。税金の源泉徴収などはその典型だろう。サラリーマンは自営業者などと比べて課税所得の捕捉率が高く、所得に対する納税額も往々にして高い。しかし、あらかじめ給料から天引きされているから税金を払っているという意識が薄く、ハナから抵抗をあきらめている。その一方で消費税が増税されると大騒ぎするが、これも損が“見える化”されるからではないだろうか。
「こうした“認知のゆがみ”にいち早く気づくことができれば、経済合理的に正しい行動ができるかもしれませんが、人間の本性を意識で修正するのはきわめて困難です。将来のことをうまく考えることができなくて貯金しなかったり(あるいは国民年金の保険料を支払わなかったり)、クレジットカードのリボ払いで高い金利で借金するのも同じでしょう。
それでも、スーパーのレジ袋の実験は、ちょっとした工夫で人々の行動を変えられることを示しています。政府は2020年4月にすべての小売店でレジ袋を有料化することを目指していますが、行動経済学でいう『ナッジ(肘でそっと押す)』を積み重ねることで、この社会を少しずつ暮らしやすくできるかもしれません」
◆橘玲(たちばな・あきら):1959年生まれ。作家。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎文庫)、『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)などベストセラー多数。新刊『上級国民/下級国民』(小学館新書)が話題。