これからRPAを本格的に導入する企業では、間接業務のホワイトカラーが大量に余ってくる。彼らを営業、販売、製造などの直接業務に回して成果を上げていくのは難しい。こうした人余りの問題にどう対処するか、ということが大きなテーマとなる。
RPAの導入当初は、かつての工場と同じようにロボットを運用・管理する人員が必要になる。RPAは適切に運用・管理しないと「野良化」して、情報セキュリティのリスクが生じる、などの問題も指摘されているからだ。しかし、技術が発展すれば、いずれはそういう人員も不要になる。
そこで、早めにRPAを導入して成功した企業は、自社が培ったノウハウを他社に売り込む新事業を展開し、他の目的には使えない間接業務のホワイトカラーをそちらに振り向けるべきだと思う。逆に言うと、RPAに精通した人材を他社に先駆けて育成できれば、新たなビジネスチャンスが生まれる、ということだ。
実は、これも同じことが工場で起きている。トヨタ自動車の大野耐一さん(元副社長)が好例だ。彼は「かんばん方式」などのトヨタ生産方式を世界中に伝道したのである。オムロンも、自社で工場の業務を改善したノウハウをパッケージにして他社に売っていた。それらと同様に、自社がRPAを導入して効果を上げたら、そのノウハウを商品化し、RPAコンサルティングチームを作って他社に派遣すればよいのである。
個人としても、RPAのエキスパートになれば引く手あまたになり、転職も起業も自由自在だろう。「遠からず自分の仕事がなくなるかもしれない」という危機感を募らせているホワイトカラーは、RPAの“伝道師”を目指すのがベストだ。それはAIが人間の脳を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」を前にした職業訓練やリカレント教育でも重要な視点となる。
しかし、いま政府が盛んに旗を振っている「働き方改革」は、仕事の「内容」ではなく「外形」を変えようとしているだけであり、完全に的外れだ。そんな政府の働き方改革には“面従腹背”で、AIツールを活用して人材をクリエイティブな非定型業務に集中した企業とAIに置き換えられないスキルを身につけた個人がシンギュラリティ時代の勝者となるのだ。間接業務の生産性改革がとくに遅れた日本では、この目線で先行した企業と個人に大きなチャンスが待っている。
※週刊ポスト2019年11月1日号