芸人の世界には、体育会系のような上下関係の厳しさが残っている。「先輩の彼女が飼っている犬の散歩をする」、「先輩が仕事に行っている間に家の掃除をする」など、後輩芸人は先輩に様々なことを強いられる。
もっとも、それは芸人にとっては悪いことばかりではなく、トークのネタにもなるので“芸の肥やし”と考えることもできる。そもそもテレビ業界は体育会系の人が多いので、厳しい上下関係で揉まれた芸人はスタッフにも気に入られやすく、ハマって番組に呼ばれるということも少なくない。
一方、最近では先輩後輩の上下関係をあまり気にしないという事務所も出始めている。その代表格が人力舎だろう。おぎやはぎを筆頭に、先輩後輩の厳しい上下関係をあまり意識しない空気が事務所全体に広がっている。飲み会でも、先輩が全額を出さなければならないというわけではなく、売れている芸人が出せばいいという風潮だ。後輩が飲み会で寝てしまっても怒られないという。
同様に、浅井企画も先輩後輩の上下関係にそれほど厳しくない事務所と言われる。同事務所所属の関根勤やキャイ~ンの芸風からも、たしかにそれは伝わってくる。
昨今のコンプライアンス厳格化の流れも相まってか、芸人界でも上下関係のかたちが変化しつつあるようだ。今までのような先輩後輩の関係が通用しないような世代が若手芸人として入ってきている。しかし、多少の厳しさがある上下関係があるからこそ芸人は面白くなっていくという側面もあり、どちらが正解かとは一概には言えないかもしれない。
■文/矢口渡(芸人ライター)