『夫婦格差社会』(中公新書)の著者で経済学者の橘木俊詔さんの調査でも、専業主婦の貧困化は明らかだ。専業主婦世帯のうち、夫の年間所得が400万円未満の貧困層は35.81%にものぼる。橘木さんが話す。
「専業主婦には、夫の所得が高い人もいれば低い人もいます。これまでは、夫の所得が高ければ妻は働かず、低ければ働くというごく自然な法則がありました。しかし、近年は夫の所得とは無関係に、専業主婦はどの世帯にも一定数存在するようになりました。特に、貧困世帯ほど専業主婦になるケースが増えています」
1982年から10年刻みで妻の有業率をみてみよう。1982年当時は夫の稼ぎが少ないほど妻は働きに出ていたが、10年後の1992年には、夫の所得が100万円未満の妻の有業率が低下、20年後の2002年にはその傾向がさらに強まった。
大卒男性の生涯賃金は1990年代後半をピークに下降を続け、今はピーク時の8割程度だ。一般に、夫の収入だけで家計をやりくりするには、年収500万円以上が必要とされるが、約4割の男性の収入がそれを下回っている。
豊かな生活を送るため、貧困世帯は妻が働きに出るのが自然のように思えるが、なぜ働かないのか。
冒頭の山田さんは、地元の大学を卒業後、運送会社でOLとして働き始め、25才で結婚。2人の子供に恵まれ、16才の長男と13才の長女、夫(45才)との4人暮らしだ。自宅は群馬県の高崎駅から徒歩20分以上の場所にある。築25年の3LDKで、家賃は6万円。
地元の小さな工務店に勤務している夫の収入は、年間の手取りで240万円前後と生活は厳しい。日々の生活費や食べ盛りの子供たちの食費、車の維持費などで毎月ほとんど手元には残らない。
「毎日スーパーでチラシをチェックして、特売を中心に食材を買ったり、たまに近所の主婦仲間からもらえる野菜でしのいでいます。本当は子供を旅行に連れて行ったり、大学にも行かせてあげたいですが、そのお金もありません。子供には高校を卒業したら就職してもらう予定です。
自分が働ければよいのですが、結婚時に仕事を辞めてからはブランクもあり、よい働き口に巡り合えません。子供がある程度大きくなったらまた復帰すればいいと思っていましたが、甘い考えでした。でも、私自身が専業主婦の母親に育てられたこともあって、子供が小さいうちは他人の手に委ねず自分で育てると決めていました。その決断に後悔はありませんが、仕事を辞めなかったら、もう少し違う生活もあったかもしれないとも思います」(山田さん)
※女性セブン2020年1月1日号