トウ小平時代からの“宿題”からの解放
今回の修正で、共産党は大きな“縛り”から解放される可能性がある。
2012年11月に開催された中国共産党第18回全国代表大会において、習近平氏をはじめとする党の新指導部の主要メンバーが共産党中央委員に選出されたが、この大会では、トウ小平時代から続く“小康社会の建設”といった大きな目標に関して、最終的な到達時期と、その時の経済規模が設定された。それが“2020年には全面的な小康社会の建設を達成する”ことで、具体的な目標として“2020年のGDP、都市住民一人当たり収入を実質ベースで2010年の倍にする”ことである。
2019年の実質経済成長率について第1四半期から第3四半期まで順に示すと6.4%、6.2%、6.0%であった。仮に、第4四半期が6.0%であったとすると、2020年の成長率は6.1%を達成しなければならない計算である。
国家が経済成長に責任を持つ体制である以上、これが達成できなければ、指導部の責任が問われることになる。しかも、これは前体制が立てた目標であり、習近平体制は是が非でも達成しなければならない“宿題”でもある。
しかし、今回のセンサス調査の結果を踏まえて試算すると、エコノミストによって大きなばらつきがあるが、2020年の成長率は、低い推計では4%以上、高い推計でも5.5%~5.8%程度でよいことになる。
2019年の実質GDP成長率目標は6~6.5%であったが、これで2020年の目標を6%前後に落とすことができる。
中国経済は大きな節目を迎えている。欧米をキャッチアップする段階では、多少背伸びをした目標でも、それこそ労働者が寝ないで頑張れば達成することができたかもしれない。しかし、現在の中国経済はそうした段階を過ぎてしまい、自ら新たに産業のフロンティアを開拓しなければならない時代に突入している。また、経済規模は今や世界第2位の水準まで膨れ上がっている。
これでは、よほど合理的な目標を設定したとしても、外部環境の変化に影響を受けやすく、安定的に目標を達成するのは容易ではない。達成できそうでなければ、統計を改竄するぐらいしか方法が無くなってしまう。
さらに、“ノルマ営業”は、成果は出やすいが、営業マンの疲弊は激しい。“ノルマ”なしで営業成績を上げる方法を考えなければならない。2021年から第十四次五か年計画が始まるが、中国は数字目標といった“ノルマ”を捨てて、それに代わる発展の原動力を見つけることができるだろうか。
それは、改革開放の加速であり、自由化、国際化の推進であろう。徹底した自由競争の中から成長を見出すということだが、これは日本にも参考になる話ではないか。競争から逃げればそこにあるのは敗北、衰退、淘汰だけだ。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うTS・チャイナ・リサーチ代表。メルマガ「田代尚機のマスコミが伝えない中国経済、中国株」(https://foomii.com/00126/)、ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(http://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も展開中。