裁判所から「接近禁止命令」
まずは、家族間で暴力があるような、緊急を要する状況ではどうすればいいのか。以前は警察に駆け込んでも、「家族内の問題には立ち入らない」とか「冷静によく話し合って」などと冷たく突き放されることも多かった。しかし近年はいくつかの法律ができて、家族であっても暴力の被害者がしっかりと守られる仕組みができつつある。
18才未満の子供の虐待は「児童虐待防止法」(2000年施行)、配偶者への暴力は「DV防止法」(2001年施行)、子が老親に危害を加える場合には「高齢者虐待防止法」(2006年施行)といった法律が適用されることになっている。
「それらの法律によって、殺傷事件などが起こる前に、暴力的な環境から緊急保護を図りやすくなりました。しかし、一時的に離れることができても、必ずしも安全とは限りません。暴力を振るう親族が、逃げた先にまで追いかけてきて連れ戻されるケースも多いのです」(佐藤さん)
いっそのこと、もう縁を切ってしまいたい──そんな時には、裁判所の力を借りるのが有効な手段の1つだ。
「DV防止法や児童虐待防止法に基づけば、裁判所により、暴力を振るう配偶者や親に『接近禁止命令』が出せます。これにより6か月間はつきまといなどが禁止され、違反した場合には刑事罰が科されます」(佐藤さん)
配偶者間や18才未満の子ではない場合は、裁判所に民事保全法に基づいた「接近禁止の仮処分」や「面談強要禁止の仮処分」などを申し立てる方法がある。それらは仮処分なので違反しても刑事罰はないが、親族とトラブルが起きた時に警察が介入しやすいという大きなメリットがある。
「当然ですが、接近禁止命令や仮処分は単に“家族と顔を合わせたくない”といった理由では認められません。認めてもらうには、身に危険が差し迫っていることなどを裁判所に示す必要があります。
家族間での身体的な暴力はもちろん、脅迫や待ち伏せ、押しかけやしつこい連絡などトラブルがあるならば、おおごとでなくても、警察の生活安全課や児童相談所、病院など、しかるべきところに相談しましょう。“被害を相談した”という事実や診断書などが裁判所の判断につながります」(佐藤さん)