日本における出生数はついに、統計史上初の90万人割れを記録した。厚労省が昨年12月末に公表した「令和元年(2019)人口動態統計の年間推計」によると、2019年の出生数は86万4000人。前年から5万4000人減少し、明治32(1899年)の統計開始以来、最も少なくなる見通しだ。
女性の大学進学率・就業率が上がるなか、出産や子育てによって“失われる利益”は増す一方だ。勤務時間の短縮や昇進の遅れ、退職を余儀なくされるなどで、本来手にするはずだった収入が得られなくなるリスクが上がる。さらに、男性の育児休業取得に批判的な日本独自の「風土」や「雰囲気」など、女性の出産を阻む壁は数多い。
家庭に目を向けても、女性の社会的役割に対する固定観念は今も根強い。団塊の世代が育った1950年代は、“専業主婦黄金期”。働かなくてよい主婦は豊かさの象徴だった。
時代とともに女性の社会進出が広がると、「女性が輝く=これまでのように家事育児もやりつつ働く」との価値観が広がり、今に至る。
しかし、1950年代当時にそれが可能だったのは、祖父母と同居していたり、地域のなかで子供を育てられたからだ。核家族化が進み、地域共同体が崩壊した現代では、こうした“成功体験”は、時に足かせとなる。『「家事のしすぎ」が日本を滅ぼす』(光文社新書)の著者で家事研究家の佐光紀子さんが指摘する。
「今の親・姑世代には“手間暇=愛情”という価値観があり、自分たちと同じ家事育児を子供世代に求めがちです。だから母親が子供を預けると“子供がかわいそう。愛情不足になっちゃうわよ”などと、いまだに白眼視されやすい。
また子供世代にも“親が自分にしてくれたことを、働いていると子供にしてあげられない”という罪悪感を持つ女性が多い。こうした人々は、現実的にはとうてい不可能なのに、“社会が求める完璧なお母さんになろうと努力中”であることをアピールすることが重要だと、知らないうちに刷り込まれている」