こうした背景には、1月24日に行われた中央政治局常務委員会による緊急会議の決定がある。習近平国家主席は1月28日、北京を訪れたWHO(世界保健機関)のテドロス事務局長と会見、「緊急会議の決定により、中央に指導組織を創り、指揮を統一した上で、各地域に全力で対処させる」と発言している。
こうした共産党の必死の取り組みにもかかわらず、初動の遅れが響き、世界的な惨事となりつつある。
ネット上では1月上旬の時点で、武漢市における新型ウイルス肺炎の感染拡大がすでに大きな話題となっていた。武漢市は中部最大の都市であり、2019年末の戸籍人口は908万人、流動人口は510万人である。一般に労働者は春節の1週間前あたりから帰郷し始め、春節には移動を終えている。武漢市では事前に騒ぎが大きくなっていたことも考え合わせれば、春節1日前である1月23日になって交通封鎖しても、多くの患者が既に拡散してしまった後である。
こうした“失敗”があるだけに、習近平政権としては、何としても短期間で混乱を抑えたいと考えているはずだ。
新型ウイルス肺炎はこの1週間で急拡大している。2月3日24時現在、国家衛生健康委員会の発表した患者に関するデータは以下の通り。括弧内の数字は1週間前の1月27日24時からの増減である。
・累計患者数:20,438人(+15,923)
・重症患者:2,788人(+1,812)
・死亡者:425人(+319)
・治療が終わり退院した患者数:632人(+572)
・特定はできないが似たような症状の患者数:23,214人(+16,241)
・追跡調査を続けている患者と密接に接触した人数:221,015人(+173,182)
・医学監察中の患者数:171,329人(+127,197)
中国の対応は日本でも連日報道されている通りである。生産現場となる大都市圏では、ライフラインに関係しない製造業企業に対しては1週間程度、操業開始を遅くするよう指導している。空港、高速鉄道こそ、一部を除いて通常運行されているものの、農村から地方の中核都市に至る高速バスが軒並み運休となっている。労働者側の移動も制限されている状態だ。