25年間在宅医療に携わる長尾クリニック院長の長尾和宏さんは「介護保険を上手に使えば、仕事と介護の両立は充分可能」だと話す。
「自宅に来てもらう『訪問介護』、日帰りの『デイサービス』、短期宿泊の『ショートステイ』など、介護保険にはさまざまなサービスがあります。医師やケアマネジャーなどの専門家に相談して、ぜひ有効活用してほしい。フルタイムで働いている娘さんが、要介護5のお母さんを介護するケースもあります」(長尾さん)
自分を大切にすることが親を大切にすることに
なかには介護と仕事を両立しようと、精神的、肉体的に追い込まれてしまう人もいる。山口さんも一時期、うつ状態に陥ったと打ち明ける。
「新聞販売店の社員食堂で働きつつ、作家を目指していた時期でした。当時、私は50才。更年期によるうつも関係していたのかもしれません。朝が来ると『どうして目が覚めてしまったんだろう』。寝る前には『ずっと目が覚めなければいい』と願う日々。母に怒りをぶつけたこともありました。それでも食堂を休むわけにいかず、なんとか出勤していました」
幸いにも山口さんは介護保険の利用やきょうだいのサポートで乗り切ることができた。だが、共倒れの末に介護殺人という悲惨な事件も起きている。太田さんは言う。
「母親の在宅介護をするために実家にUターンした男性がいましたが、身体的にも経済的にも苦しく、うつ状態になってしまいました。それでも在宅介護にこだわった結果、男性は入院するほど悪化し、母親は強制的に施設に入居することになってしまったのです。介護では自分を大事にすることが、ひいては親を大切にすることになります。倒れる前に担当のケアマネジャーに相談するなど、周囲に助けを求めてほしいです」
親の希望通り、自宅で見てあげたいという思いはあるだろう。だが、在宅介護に限界を感じたら、すぐに施設入居を検討した方がいいという。
「具体的な目安としては、介護者側が心身に限界を感じ、自身の生活との両立が厳しくなった場合。または、介護を受ける側がトイレをひとりでできない、火の始末ができないなど、ひとりで過ごせない場合です。ご本人の意思も大切に相談を重ねますが、施設に入居させることに罪悪感を持つ必要はありません。施設に入っても親子の縁が切れるわけではないですし、共倒れになったら、元も子もありませんから」(太田さん)
※女性セブン2020年3月19日号