葬式には、形式やかける費用、故人の希望など、検討すべき要素が多い。それだけに、規模の大きさにかかわらず、重要なのは「いつ準備を始めるか」だ。
心不全で亡くなった女優の赤木春恵さん(2018年11月逝去、享年94)の娘・野杁泉(のいり・いずみ)さんは、赤木さんが90才を過ぎ、骨折して歩行が難しくなった頃、不安に襲われたという。
「いつか訪れるお別れのとき、祭壇や返礼品、戒名などの準備だけでなく、マスコミ対応が私に押し寄せてくるのだと思いました。でも、まだ母が元気なうちから葬儀について考えるなんて縁起でもないと思っていました」(泉さん)
泉さんを救ったのは、両親を見送った経験のある友人からの言葉だった。
「“いまのうちから葬儀の心づもりをしても、何も悪いことではない”と言われたんです。それからは、頭の中にメモをするように、母の葬儀を少しずつイメージしていきました。母は、“私に何かあっても、お葬式なんてしなくていいのよ”と話すような人で、希望やこだわりを口にすることは一切なかったけれど、私は、“母なら、どうするだろう”と考えました」(泉さん)
そのイメージを具体的に周囲に伝えていったのは、赤木さんが亡くなる3か月ほど前のことだった。葬儀社は、映像や舞台の美術制作会社である「東宝舞台」の手がける葬儀社に依頼し、遺影の手配、祭壇の花の種類、寺とのやり取りや役割分担を1つずつ決めていった。