いつかは誰もが直面するであろう親の介護問題。介護に向けた準備とともに考えておきたいのが、「看取り方」だ。
「食堂のおばちゃん」作家として知られる山口恵以子さん(61才)が新著『いつでも母と』(小学館刊)で綴ったように、母の認知症発症から介護、自宅での看取りまで、戸惑いと不安の中、家族が決断しなければならないことがいかに多いかがわかる。
山口さんの介護は、2019年1月に母が91才で亡くなるまで約19年間にわたって続いた。
山口さんの母は亡くなる4か月ほど前、直腸腫瘍から出血して、救急車で病院に運ばれた。このとき医師から、心臓マッサージ、気管切開、胃ろうなどの延命治療をどこまで希望するか尋ねられたが、山口さんは「いずれも希望しません。ただ、痛い、苦しいことがないようにしてください」とお願いしたという。
「母と話し合ったことはありませんが、テレビで胃ろうや気管切開された患者を見て、死なせてあげた方がいいのにかわいそうだと口にしていたので、拒絶するとわかっていました。それに、91才という年齢を考えれば、そこまでの処置は必要ないと思ったのです」(山口さん)
「延命治療は受けたくない」「できる限りの治療を受けて1日でも長く生きたい」といった死生観、最期の希望は、人によってそれぞれ違う。だが実際、命の危険が迫った状態になると、約70%の人が自分で決めたり、人に伝えたりすることが難しくなるといわれている。
そこで近年提唱されているのが、「人生会議」だ。人生の最終段階における医療・ケアについて、意思能力が低下する前から自らの希望について考え、 医師やケアマネジャーなど医療の専門家と一緒に話し合うことをいう。
こうした人生会議で大事なのは、「ひとりで決めてしまわない、何度も話し合う」ことだと25年間在宅医療に携わる長尾クリニック院長の長尾和宏さんは言う。
「人生会議の基本は、専門家の力を借りながら、こまめに今後の治療やケアについて話し合うことです。そのためには、親切に患者の相談にのってアドバイスしてくれるような医師に巡り合っておくことが大事です。田舎では医師を選べないこともありますが、代わりにケアマネジャーや看護師が相談にのってくれることもあります」(長尾さん)