つまり、父の意向(遺言書)が“過剰だった”と見なされるのだ。さらに兄弟の確執も招き、相続がドロ沼の“争続”になってしまった。どう記せばよかったのだろう。曽根氏はこうアドバイスする。
「遺言書には被相続人の心情を綴ることができる『付言事項』という項目があります。法定相続分を侵害する相続を予定しているなら、そこに『Aは金銭的に老後の援助してくれた』など、理由を明記すべきでした。ただし、付言事項に法的拘束力はありません。遺留分を超える遺産分割を望むなら、付言事項に加えて、生前に贈与を済ませて弟に遺留分放棄の手続きをしてもらえば確実でした」
放棄手続きは家庭裁判所の許可が必要で、「申立人(弟)の自由意志であること」「合理的な理由があること」「放棄の見返りがある」などが条件となる。
遺された家族の幸せを考えるなら、正しい手続きに注意を払わなければならない。あの世から「俺のカネだから、どう分けようと俺の自由だ」と叫んでも、相続のルールを覆すことはできない。
※週刊ポスト2020年3月20日号