一方、70代のB美さんは2年前に夫に先立たれ、3LDKの一戸建てでひとり暮らしをしている。
「膝の調子が悪くて、最近は階段の上り下りがおっくうになってきました。子供がいたときは“狭いなぁ”と思っていたけど、私ひとりには広すぎて、寂しくなる。掃除も大変です。賃貸で充分なので、もっと駅に近くて賑やかなところで暮らしたい」
B美さんは古くから商店街のある駅周辺で、賃貸物件を探し始めた。
「貯金があまりないので、夫の死後は“年金だけで暮らしていけるのか”と、不安でした。でも、家を売ればまとまった貯金ができます。そうすれば、将来介護サービスつき高齢者向け住宅や老人ホームに入るにしても安心ですから」(B美さん)
一戸建てを売却したお金で引っ越しして、そこを「人生の最期を過ごす家」にしようと考えているA子さん夫婦とB美さん。だが、その思惑通りにはいかなかった──。
住み慣れた家を手放した人が陥る窮地
「思っていたほどの値段で売れなかったのが、大きな誤算でした」
4LDKの一戸建てを売却して、夫婦で2LDKの中古マンションに引っ越したA子さんはため息をついた。
「家は3500万円くらいで売れるだろうと踏んでいたのですが、甘かった。30坪ある建物の価値はゼロで、評価されたのは土地代だけ。家の解体費用と廃棄物の処理費用が大きなマイナスになりました。売値を下げてもなかなか売れず、“2500万円なら買ってもいいという人がいる。これを逃すともう売れないかもしれない”と不動産会社に言われ、泣く泣く売却しました。マンションの購入代金2000万円、不動産会社への売買手数料も含めると、売却益はほとんど出なかった」