予定されていた東京五輪の開会式までいよいよ4か月。JOCを中心とした“開催強行派”の意見が大勢を占めていたが、WHOが「パンデミック」を宣言してからは「無観客」「中止」などの声が出ている。実は、この状態下では「延期」という判断のメリットが大きい──そう見る専門家は多い。
五輪はスポーツの祭典であると同時に、開催国に莫大な経済効果をもたらす大イベントでもある。第一生命経済研究所の首席エコノミスト・永濱利廣氏が語る。
「五輪開催国は例外なくその前後に景気の拡大、株価の上昇を経験してきました。1984年のロサンゼルス大会以降の夏の五輪開催国の経済成長率の平均を日本に当てはめると、GDPの押し上げ額は開催年だけで約1.7兆円、関連産業の生産誘発額でいえば約3.2兆円の経済波及効果が期待されていました」
しかし、新型コロナウイルスの世界的なパンデミックにより、このままではその莫大な経済効果が失われることになる。7月24日の開会式の時点で世界規模の感染拡大が収束しているかは不透明で、「今年の開催を強行したとしても、外国人観光客による特需は望めない」(同前)という状況だ。
「一方で、中止となれば、約3.2兆円の経済波及効果がまるまる失われる上に、心理的な落ち込みで消費マインドがさらに冷え込む可能性がある。無観客で開催された場合も、テレビなど耐久消費財の買い換え需要は期待できますが、効果は限定的です。テレビの国内出荷台数が2019年の486万台から700万台程度に増加したとしても、4000億円程度の需要創出に過ぎません」(同前)
開催しても、中止しても失われるものが大きい──そんななか、唯一、明るいシナリオになり得るのが「延期」だ。
五輪組織委の高橋治之理事が「1~2年後の夏に延期するプランを考えるべき」と発言して話題となったが、電通元専務でスポーツビジネスに明るい高橋氏が延期に言及したことは、そのシナリオに“実利”があるからだとみるべきだろう。前出・永濱氏もこういう。
「企業の倒産が増えると、需要に応えきれない可能性はありますが、基本的に延期であれば経済効果はスライドすると考えられる。1~2年後の開催前に新型コロナウイルス問題が収束することが条件ですが、延期こそ最も大きい経済効果が期待できるシナリオなのは間違いありません」