テレワークが“首切り選別システム”に
2月のある日、都内で働く会社員のAさん(38才)が目覚めると、喉に違和感があった。体温を測ると37.2℃。それでも、解熱剤をのんでマスクをつけ、何食わぬ顔で出勤した。
「コロナウイルスが流行っているのは知っていたけど、中国の話でしょう? テレワークができないわけではないですが、やっぱり会社に行かないと“働いた感”がない。周りにうつしたり心配をかけるわけにはいかないけれど、それと同じくらい、働かないわけにもいかない。デマに惑わされた人たちがトイレットペーパーを買い占めているから、早く仕事を終わらせて、在庫のある店を回ってから帰らないと」(Aさん)
ちょっと熱が出たくらいでは会社は休めない──“コロナ前”なら、多くの日本人がAさんの考えを理解できただろう。だが、現在、そして“コロナ後”は、人々の意識は大きく変わる。接客や医療など、出勤が必要な職業を除き、テレワークを選択しない社員は迷惑がられ、社員に出勤を強制する会社は“ブラック企業”のレッテルを貼られることになる。働き方が大きく変わる一方、各地で買い占めを起こさせている“日用品が足りなくなる”などというデマは、これまで以上に増えると予想されている。精神科医の片田珠美さんが分析する。
「いま、“大切なものを失うのではないか”という“喪失不安”が日本中に広がっています。自分や大切な人の命を病気で失うことへの恐怖だけではありません。新型コロナウイルスによって、私たちは、仕事や家族の絆まで失いかねないのです。
テレワークをするようになると、これまでは会社に行きさえすれば仕事した気になっていた人たちが成果を出せず、“仕事できないおじさん・おばさん”があぶり出される。つまり、リストラの不安におびえることになります」(片田さん・以下同)