日本にとって中国は重要な貿易、直接投資の対象国である。輸出先では、アメリカと1、2位を争う規模であり、輸入先では断トツの1位である。対外直接投資では、年によってばらつきはあるが、アメリカ、EU、ASEAN諸国などに交じって金額の大きい国のひとつである。それだけに、中国経済の動向は日本経済に大きな影響を及ぼす。
中国では、今年の経済運営方針を決める全国人民代表大会が5月22日、通常よりも3か月半遅れて開幕した。今年の経済運営方針などを示した政府活動報告の発表が行われたが、それは大方の期待を裏切る内容であった。そのため、中国本土、香港、日本をはじめとするアジアの株式市場は、当日軒並み下落した。
毎年発表される経済成長率目標が、今回は示されなかったが、これは中国、世界の経済情勢の厳しさを物語っている。
目標が示せなかった理由として、政府活動報告では、「世界的に新型コロナウイルスが流行しており、経済・貿易の見通しが立たないため」と説明している。この点について、エコノミストたちもまったく同感であろう。しかし、政府とエコノミストとは立場が違う。
政府が目標を設定し、それに向けて足元で行われている積極財政政策、金融緩和政策、長期成長戦略をさらに強化してこそ、力強い経済回復が達成できる。
徹底した隔離政策などで、いち早く新型コロナウイルスの封じ込めに成功した中国であるが、再流行を防ぐために、国際的な移動、国内の地域を跨ぐ移動について、依然として厳しく管理している。こうした状況がいつまで続くかわからず、需要面での対策については限界がありそうだ。中国だけではなく、世界規模で感染拡大が収まらない限り、社会主義国である中国でも、景気をV字回復させるのは難しい。
ただそれ以上に、投資家にとっては、経済成長は何のために必要なのかということを再認識させられるような発表であったという点も、残念なところである。