総務省の調査によると、全国には848万9000戸の空き家がある(2018年時点)。これは総住宅数の13.6%に達し、過去最高だ。そんな空き家問題の解消と過疎地の活性化を両立させている自治体がある。
池袋駅から特急で1時間20分の秩父市。人口は約6万1600人。近隣の横瀬町、皆野町、長瀞町、小鹿野町を含めると約10万人。山や川などの自然に囲まれた美しい街だ。バブル期には週末のキャンプや川遊び、ゴルフなどを目的に多くの別荘が建てられ、活況を呈した。
しかし、バブル崩壊後、リゾート物件の価値は暴落。さらに維持費や固定資産税などの負担が所有者にのしかかり、売ろうにも誰も見向きもしない「負動産」になってしまうケースが増えた。秩父の物件もその例外ではなかった。
そこで秩父地域の自治体(1市4町)などが移住者を増やす目的で、2011年に『ちちぶ空き家バンク』を開設。空き物件ごとに地元の不動産業者が担当となり、ホームページ上で利用方法、物件の価格や状態、間取りなど詳細なデータの公開を始めた。
秩父地域の人口は減少傾向にあり、それにストップをかけるためにも空き家の活用を試みたわけだが、設立当初の物件登録数は年間3~4件だったという。
固定資産税の通知に思いを託す
『ちちぶ空き家バンク』委員長で、不動産業を営む依田英一郎さんが語る。
「“負動産”を抱えて困っている人は秩父以外に住んでいるかたが圧倒的に多い。市や町の広報誌やホームページで告知しても、市町外在住者の目に触れないというのが実情でした」
ある日、東京在住の友人との会話で実家の固定資産税の話題となり、依田さんは納付通知の存在に気がついた。
「空き家バンクの存在を知ってもらって登録を促そうと建物の登記簿から所有者を辿ろうにも、相続登記をしておらず所有者が故人名のままの物件も多い。でも、市や町は固定資産税の情報を持っています。登記はそのままでも自治体に納税している相続人の特定が可能なことに気づいたのです」(依田さん)