SBIホールディングス・北尾吉孝社長(69)はコロナ禍でも「今こそチャンス」と前向きだ。野村證券時代から国際派として将来を嘱望され、ソフトバンクの孫正義氏との出会いでネット金融の世界に転じた豪腕社長に、今後の展望を訊いた。
──2006年にソフトバンクとSBIホールディングスは資本関係を解消していますが、今でも孫さんとは肝胆相照らす仲なのですね。しかし現在、孫さんのソフトバンクグループは窮地に陥っている。前期決算は1兆円に迫る赤字、今年の1月から3月に限れば1兆4000億円もの赤字を出している。孫さんはこの危機を乗り切れるでしょうか?
北尾:正直に言って、孫さんは投資には向かない人だというのが、僕の印象です。
僕がソフトバンクで資金面を指揮していた1990年代後半のアメリカ株式市場は、売上や利益がほとんどなくてもビジネスモデルのコンセプトのみでIPO(新規上場)し、インターネット企業の株価に対して異常な値が付くというような常識とかけ離れた状態になっていました。
僕は、そういう常識を外れた相場のときは、基本的に“売り”なんです。そういう企業の株はどんどん売って手仕舞いしていきました。
そのタイミングではまだ、アメリカの投資銀行のアナリストたちが「インターネット関連の株はまだまだ上がる」と声を揃えていましたので、孫さんも「北やん、売るの早すぎるよ」と言っていたくらいです。それでも僕は「常識を逸脱した株価だから売る」と答え、周囲の反対を押し切って売ることにしたのです。
僕がそう考えた原点は、やはり野村證券でのニューヨーク駐在時代にあります。連戦連勝でお客さんにも野村にも大きな利益をもたらしましたが、それでも「いつ外すかわからない」と考え、常に利益をプールしていました。長年相場に携わっているので、相場勘や直感力が研ぎ澄まされたんです。2008年のリーマンショックの時も、1年前に起こったパリバショックでただならぬ事態を察知し、売るものは売って有事に備えました。