【書評】『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』/堀新一郎、 琴坂将広、井上大智・著/NewsPicksパブリッシング/2400円+税
【評者】森永卓郎(経済アナリスト)
本書は、大成功を収めた日本の起業家17人へのインタビューを通じて、どのようにしたら起業を成功に導くことができるのかを体系的に整理したものだ。ケーススタディに基づく、成功へのガイドブックと言ってよい。
本書の一番優れている点は、アイデアを見つけるところから始まって、会社のメンバー集め、事業の仕組みづくり、ユーザーの獲得、資金調達と、ステップを踏んで具体的に成功の原則を書いていることだ。しかも、思い込みがなく、客観的に淡々と記述しているので、とても読みやすい。
実は、私は最近の起業家のことを快く思っていなかった。ちょっとした思い付きをネットで展開し、ピンハネビジネスで事業を拡大した後、株式公開をして、後は左うちわというパターンが多いからだ。
松下幸之助が二股ソケットを皮切りに国民生活を改善する家電製品を次々に生み出したり、中内功がカラーテレビまで安売りする総合スーパーというカテゴリーを生み出したりと、額に汗する努力が、最近の起業家たちからは、感じられないと思っていたのだ。
ただ、そうした偏見は、本書を読んで、消え去った。確かに、本書に登場する17人の起業家は、全員ネット上のビジネスで成功を収めている。成功後に株式を売った起業家も多い。しかし、彼らも、いまの社会でどのようなサービスが求められているのかを真剣に考え、それぞれのステップで試行錯誤を繰り返して、成功への階段を上っている。その姿は、高度成長期と基本的に変わらない。現代の起業家がネットビジネスばかりなのは事実だが、それは社会自体がネット社会に変わったからなのだ。