「起業」というものは、それをした瞬間は気持ちが大きくなり、立派なオフィスを借りたり、アシスタントを雇ったりしたくなるものらしい。しかし、いずれ資金繰りが悪化し、近しい人に「出資」を頼むようになるケースもある。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏も、最近同じようなケースに遭遇した。出資という名の借金が、人間関係にどう影響するのか、中川氏が思いを述べる。
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先日、「久々に会いませんか」とお誘いを受け、旧知の友人と飲みに行きました。彼は広告代理店から独立起業して数年が経過していますが、会う時は毎度事業についてイキイキと語っていたので、「あぁ、楽しそうでなにより」「儲かっていそうでなにより」と思っていました。今回も、最近手がけている事業の話をしてくれたのですが、途中から雲行きが怪しくなってきました。彼は小売店の販促支援を行っています。
現在の会社の状況を教えてくれたのですが、今年の売上が最高潮の時期の60%ほどになってしまう見込みだというのです。月別の売上も見せてもらったのですが、目を覆うような数字もありました。
そして、そうした状況を説明するシートの次に来たのが「出資のご案内」というページです。正直この瞬間、「来たか……」と思いました。金額は500万円で、儲けが出た場合に7%の利子をつけて返す、といった条件が書かれています。また、彼が手がけるサービスを自由に使えるとか、そういったことも書いてあります。しかし、私はこう言うしかありませんでした。
「すいません、オレ、人にカネは貸さないことにしているんですよ。今回『出資』って書いてはいるけど、借金ですよね?」
この瞬間の彼の気持ちを考えると、私も本当に申し訳なく思います。恐らくこの「出資のご案内」のページを作る時、「どうしてこんな状況になった……」と自分を責めたくなったことでしょうし、飲み会という名目で誘っておきながら、こんな話をせざるを得ないことも残念だったはずです。彼がこれまでがんばってきたことを知っているだけに、私は胸が締め付けられる思いでした。