御手洗氏は、最初に社長を務めた1995年から2006年までの11年間は輝かしい実績を残している。事業の「選択と集中」を進め、パソコンなどの赤字事業から撤退。プリンターやインク、デジタルカメラで継続的に稼げるビジネスモデルを構築し成長に導いた。その後は会長に退き、経団連会長を2期4年務めたが、リーマン・ショックやタイの洪水被害で業績が悪化した2012年に社長に復帰している。
だが、同社の勢いがあったのはまさに御手洗氏の最初の社長時代とその余韻があった時期と重なり、その後は徐々に業績が低迷していく。ライバル企業との競争で主力のプリンターやカメラ事業の競争力は低下し、一方で新たに収益源となる事業を見つけられていないのが現状だ。2016年に真栄田氏を社長に抜擢したが、その間も事実上のトップに君臨し続けているのは御手洗氏だ。アナリストの一人は「長期政権の弊害」について、次のように分析する。
「もし御手洗氏の一存で社長が交代しているのであれば、上に物を言いにくい企業体質が醸成されかねない。組織が硬直化することで次のキヤノンを担う後継者不足を招き、業績悪化を長期化させている面もあるのかもしれない」
このまま業績が回復しなければ、3期連続の減益の公算が大きい。経営の先行きを案じてか、同社の株価は7月に1999年12月以来となる、実に約21年ぶりの安値を付けている。キヤノン復活への道筋が見えてくる日はいつか。
【プロフィール】わじま・ひでき/経済ジャーナリスト。国際認定テクニカルアナリスト(CFTe)。日本勧業角丸証券(現みずほ証券)、株式新聞社(現モーニングスター)記者を経て、2000年ラジオNIKKEI入社。解説委員などを歴任後、2020年6月に独立。1985年から株式市場をウォッチし続け、四季報オンライン、日経マネー、週刊エコノミストなどへの寄稿多数。