コロナ禍の中、多くの企業が苦境に喘いでいる。そんな時に思わないだろうか。「もしもあの名経営者が今、リーダーシップを発揮したら」――。はたして彼らは現在の「窮地の企業」にどんな打開策を巡らすだろうか。ここでは、ジャーナリストの有森隆氏が、「もし日本郵政の社長が土光敏夫氏だったらどうするか」考えてみた。
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“ミスター合理化”“行革の鬼”“メザシの土光さん”などの異名で知られる土光敏夫氏には、その人柄や行動力を表わす多くのエピソードがある。
出向先から経営再建のために呼び戻され、1950年に石川島重工業(後の石川島播磨重工業、現IHI)の社長に就任した土光氏は、役員だけでなく一般社員が持っていた伝票や領収書の類を社長室に運び込ませ、伝票の山をバックに社員を一人ずつ順番に呼び入れた。社内はパニックになったが、効果はてきめんで、翌月から経費は半分から3分の1に減ったという。
経営再建を依頼されて乗り込んだ東芝では、初の取締役会で冷ややかに迎える役員たちを前に「社員諸君にはこれまでの3倍働いてもらう。役員は10倍働け。私はそれ以上働く」と一喝したのが今でも語り草になっている。
1974年から経団連会長を2期6年務めた後、1981年に第二次臨時行政調査会長に就任すると、国鉄、専売公社、電電公社の民営化路線を打ち出して行革の指揮を執った。
その土光氏がもし日本郵政の再生に乗り出したら──。
かんぽ生命保険の不適切契約問題をめぐって、日本郵政グループは7月29日に役員を含む573人の懲戒処分を発表した。
日本郵政の抱える問題は、かんぽ不正や不適切販売の実態が上層部に届かない組織ガバナンスの問題である。加えて、前任の西室泰三氏が豪州の物流大手トール社を買収して4000億円もの巨額損失を出し、日本郵政だけでなくゆうちょ銀行とかんぽ生命保険も一緒の親子上場を強行して株価の低迷を招いたが、この“負の遺産”をどう解消するかである。