未知のウイルスは、日本経済を支える大企業をも弱らせている。1000社を超える上場企業が業績予想を下方修正する中、誰が経営を舵取りしても無理──そう結論づけるのは早計だ。昭和時代の日本企業はオイルショックやプラザ合意(円高不況)、平成に入ってすぐにもバブル崩壊といった難局に直面したが、それぞれが試練を乗り越えてさらなる成長を遂げてきた。
そうした昭和・平成初期の経営者たちが現在の「窮地の有名企業」を任されたとしたら、どんな打開策を巡らすだろうか。ここでは、経済ジャーナリストの町田徹氏が、「もしANAの社長がヤマト運輸の小倉昌男氏だったらどうするか」考えてみた。
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新型コロナの影響で世界のエアライン各社は軒並み経営危機に陥っているが、日本も例外ではない。特に深刻なのはANAで、1~3月期の最終赤字は587億円でJALの2.5倍に達した。4~6月期に至っては過去最大の1088億円の赤字を記録している。
ANAの赤字が膨らんだのは、コストに占める「固定費」が大きいことがある。航空会社の代表的な固定費は機材費(飛行機)と人件費で、羽田空港の拡張の際にANAはJALのほぼ2倍の発着枠を獲得したため、航空機を2009年の213機から2020年には303機へと増やしている。
さらにLCC(格安航空会社)事業に参入して拡大を続けたため、従業員数もJALより約1万人多い。兵站の伸び切った経営のもろさを露呈したのである。
そんなANAの立て直しを任せられる人物を、“昭和の名経営者”から選ぶとしたら、大和運輸(現ヤマト運輸)の二代目社長、小倉昌男氏が適任と考える。
小倉氏が父の後を継いだ当時、同社は需要が急増した長距離トラック輸送への参入に出遅れ、経営難に陥っていた。そんななかで小倉氏は「小口貨物より大口貨物のほうが合理的で儲かる」という業界の常識に疑いをもち、小口貨物のほうが単価が高いという事実に気づき、「クロネコヤマトの宅急便」を開発。宅配便事業の会社に転向し、同社を成長軌道に押し上げた。