配偶者を守るための新制度だが、“落とし穴”がある。特に懸念されるのが、自宅の所有権を持つ子が自宅を処分しようとするパターンだ。
「配偶者居住権が設定された不動産は『負担付きの所有権』となり、所有権を持っていても自由に扱えません。この例では、子が住むために妻を追い出したり、第三者への賃貸はできません。妻が認知症になって老人ホームに移り住むとしても、『負担付きの所有権』がネックになり、そのままでの売却は困難でしょう」(前出・植崎氏)
また介護が必要になった妻が自発的に老人ホームに入居したいと思っても、所有権を持つ子が首を縦に振らなければ、売却して入居費用を捻出することはできない。
現金か、不動産か
預貯金が少なく、子が複数いる場合も注意が必要だ。たとえば遺産の預貯金が少なく、妻が自宅の居住権、長男が自宅の所有権、次男が預貯金を相続したケース(別掲図B)。
「当然、預貯金がゼロの長男には不満が生じます。さらに土地の固定資産税は所有権を持つ長男に請求が行くことになりそうなので、長男は『住んでもないのに、なぜ払う必要があるのか』と思うでしょう」(前出・植崎氏)
なお、修繕費を巡り母と子が揉めることも考えられる。災害などの大規模な修繕は所有者の負担になる。
居住権について遺言書に記す際にも、注意が必要となる。
「配偶者の居住権を遺言書に明記する際の言葉の選び方が重要です。『妻に居住権を相続させる』と書いてしまうと、実際は妻が居住権を望まない場合、妻が居住権だけを拒否することは不可能です。預貯金や株など、ほかの財産もひっくるめて相続放棄することになります。
『相続』ではなく『遺贈』と書いておけば、自宅の居住権だけを拒否できますが、専門家に相談することをおすすめします」(前出・植崎氏)