新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、テレワークが急速に普及したが、今度は休暇を楽しみながらテレワークで仕事をするという「ワーケーション」という言葉も誕生している。はたしてこうしたあたらしい働き方は日本に根付くのか。経営コンサルタントの大前研一氏が考察する。
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今度は環境省が「ワーケーション」に補助金をバラ撒くそうである。
同省の発表によると、新型コロナ禍で甚大な影響を受けている国立・国定公園の観光事業者などの雇用を維持するため、国立・国定公園でワーケーションと連携したエコツーリズムなどを行なう501の事業に対し、合計22億円の補助金を支給するという(※事業の内容は「ワーケーションツアー等の実施のための企画・実施費用の支援」「キャンプ場や旅館等でのワーケーションのためのWi-Fi等の環境整備支援」など)。
だが、問題山積の「Go To キャンペーン」と同じく、この事業に何の意味があるのか、なぜ今やる必要があるのか、私はさっぱりわからない。
ワーケーションは、英語の「ワーク」と「バケーション」を合わせた造語で、旅先の観光地やリゾート地などで休暇を楽しみながらテレワークで仕事をするという概念だ。7月に菅義偉官房長官が「政府としても普及に取り組んでいきたい」と述べて話題になった。
しかし、政府からそう呼びかけられたからといって、日本企業の一般サラリーマンにそんな働き方を取り入れることができるのだろうか? 私は無理だと思う。
普通、バケーションに出かけた時は、誰しも仕事のことを忘れてリラックスしたいものである。よほど多忙な人やワーカホリックな人でない限り、休暇で訪れた旅先にまで仕事を持ち込みたくはないだろう。
仮にワーケーションをやってみたいと考える人がいたとしても、それに要する交通費や宿泊費まで国が面倒を見てくれるわけではない。しかも、冒頭の事業では、補助金は環境省から「中間執行団体」を通じてキャンプ場や旅館・ホテル、観光地域づくり法人などへ流れることになっている。つまり、消費者にはほとんどメリットがないわけで、これは世の中の実情を知らない政治家と官僚が国立・国定公園とワーケーションをこじつけた“机上の空論”でしかないと思う。