アメリカの株価上昇が続いているが、世界的にバブルを懸念する投資家は多い。8月28日におけるNASDAQ総合指数の市場平均PER(株価収益率)は66.45倍。歴史的に見ても極端に高い水準となっている。
市場では「バフェット指標」が注目を集めている。国全体の株式市場の時価総額を名目GDPで割った値であり、100%を超えてくると割高と言われる指標である。これが足元では170%を超えており、ITバブル、リーマン・ショック前をも凌ぐ高い値となっているという(8月31日付、日本経済新聞より)。
こうした分析の根拠には、企業のファンダメンタルズと株価の間には強い因果関係があるとの暗黙の了解がある。しかし、そうした因果関係を過信しすぎると株価形成の本質を見誤ってしまう恐れがある。この点を理解する上で、香港市場、中国本土市場で起こっている現象が参考になると思う。
ステアリングの設計・製造などを手掛ける自動車部品メーカーの浙江世宝(H株01057、A株002703)は香港、本土両市場に上場しているが、その株価の乖離は著しい。8月28日における香港市場株(H株)の終値は0.93香港ドル、人民元に換算すれば0.82元(1元=1.129香港ドルで計算、有効数字2桁で四捨五入)であった。これに対して本土株(A株)は5.52元である。H株の株価はA株の14.9%に過ぎない。
現在、浙江世宝のようにH株もA株も上場している企業は100社強あるが、28日はすべてでH株の方が割安だった。この日最も差が小さかったのは中国平安(H株02318、A株601318)である。H株は83.3香港ドル、人民元に換算すれば73.75元。A株は77.89元。H株の株価はA株の94.7%であった。
香港、本土両市場に上場している銘柄は、ほとんどの期間で“H株はA株よりも割安である”といった状態だが、過去には2010年から2014年にかけて断続的にその関係が逆転した時期もある。株価の相対的な関係は不安定で、絶えず変動している。
もし仮に、香港市場で割安なH株を買い、本土市場に持って行って売ることができれば、リスクなしに儲けることができる。多くの投資家がいわゆる裁定取引を行うことで、株価差は短期間で消滅するだろう。しかし、H株とA株は別々の市場で取引される交換できない株式である。現状では、それぞれの市場で形成される価格はまったく違ったものとなっている。