だが新型コロナによる外出自粛期間をこの家で過ごしたとき、娘は父の思いを初めて知ることになる。
「2階にある全面ガラス張りのリビングから、海や山が一望できました。朝日が昇るのが見え、夕日が素敵で、満天の星空や水面に映る満月に息をのみました。その景色を見て初めて、父がこの家を心から好きだった理由を理解し、本当に素敵な場所だとつくづく感じました。父は天国で『気づくのが遅いよ』と思っているかもしれないけど(笑い)」
しかもこの頃、アンナはある事実を知らされた。
「亡くなってからわかったのですが、父は周囲に家が建つのを防ぐため、真鶴の土地を12回にわたって買い足していました。それほど真鶴でゆっくり過ごしたかったこともあるし、私や母のプライバシーを守ろうとしてくれたのでしょう。考えてみれば、父は私と同じくパーティーなどが苦手で、ひとりでいるのが好きなタイプ。父とそっくりな私にとっても、真鶴の家は自分らしくいられる場所だと気づきました」
父の深い思いを受け取った娘は、この家を守っていくことを決心した。
「ここは父の温かさを感じられ、リラックスできる場所でもあります。ウーバーイーツは届かないし、キャッシュレス会計も最近やっと普及し始めたようなところですが、父が好きだった景色が私も大好きなので、ここで過ごす時間がたくさんあればと思います。いつまでできるかわかりませんが、可能な限り、父が残してくれた真鶴の家を守っていきたいです」
もうすぐリノベーション工事も始める予定だ。父が選んだ最高の終の棲家を、娘は継承していく。
※女性セブン2020年9月24日・10月1日号