真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

商社株を買い集めるバフェット氏と「保守性バイアス」の罠

“究極のバリュー投資”と評価する声がある一方で…

「自分が分かるものだけに投資する」ことを徹底してきたバフェット氏は、これまで遠い国である日本の株に資金を投じたことはなかったのに、今回初めて日本、しかも商社株に投資したのはなぜか。

 その理由として、価格の変動によって収益の波が激しい「資源ビジネス」が重石となっていた日本の商社株を、バフェット氏が割安と見て「逆張り」したという見方が市場では広がっている。確かに、米国ではGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)などの巨大IT企業が牽引する格好で、ナスダック総合株価指数やS&P500が史上最高値を更新しているのに、日本株は伸び悩んでいる。そんな日本株のなかでも、資源ビジネスに力を入れてきた日本の商社は、資源価格の低迷で収益が上がらず、出遅れていた業種だ。

 しかし一方で、資源を大量に消費してきた中国は、コロナ禍からいち早く立ち直る動きを見せており、今後中国の需要が増加することで資源価格の上昇が見込めるため、今は割安な商社株に投資することは“究極のバリュー投資”と言えるかもしれない。そこに目をつけるあたりは、バフェット氏ならではと言える。

 しかし、そうした見方とは逆に、バフェット氏の投資手法に疑問の声もあがっている。中国の景気回復を期待して鉄鉱石価格などが上昇し、そうした資源の高騰を支えに商社株が上昇することはあるかもしれないが、それは短期的な視点にすぎない。なぜなら、中国経済は既に成長の限界を迎えていると見られ、長期的に見れば中国の需要は頭打ちとなるからだ。

 中国では、鉄鋼やセメント、石炭などの分野で過剰な生産能力が蓄積している。本来であれば企業は生産量を抑えて効率化を図り、競争力の弱い企業は淘汰されるべきなのに、中国政府は雇用を守るため、企業の淘汰よりも低金利政策と公共事業の積み増しを強化している。それはまさに“ゾンビ企業の延命”と言うほかない。

 中国政府と国有企業などの経営を見ていると、中国には「在庫調整」という発想がない。振り返ると、今から100年前の1920年代、米国経済は自動車の大量生産の開始とともに大きく発展し、株価も上昇した。しかし、当時米国にはまだ在庫調整という考え方がなく、大量生産を繰り返した結果、生産能力の過剰が1929年の世界大恐慌につながった。

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