コロナ禍で老親に会えない日々は、遠方に実家を抱える者にとって大きな不安要素となっている。それはいずれ来る「実家の処分」の問題にも大きく影響する。都内在住の59歳男性は、離れて暮らす80代の母親が心配だと話す。
「ゴールデンウィークもお盆も帰省できませんでした。母はもともと耳が遠かったんですが、最近ますます衰えていて……。正月に帰った時には居間や台所にモノが散乱していた。ボケてしまわないか心配ですし、実家がゴミ屋敷になって、いずれ“負の相続”になってしまうのではないか」
気軽に実家に帰れない今は、手をこまねいているしかないのか。そんなことはない。実は“コロナ禍だからこそ”かえって実家のことが見えてくる場合も多いのだ。
「コロナで“体調は大丈夫?”“何か困っていることはない?”と頻繁に電話をかけるようになりました。すると親も、もしもの時のことを考えるようになったのか、こちらから聞きにくいことを話してくれるようになった。
“自分に何かあったらこの保険と○○銀行の預金を使ってくれ”“ご近所の○○さんは親切だから頼っている”と、自然なやりとりの中で万が一のために聞いておくべきことを聞き出せた」(福井県に80代の両親を持つ首都圏在住の62歳男性)
相続に詳しい税理士の松浦章彦氏が言う。
「コロナで老親が今後に不安を抱えている現在は、実家の状況を把握するチャンスと言えます。この男性のように自然に資産状況や重要書類のありかを聞くのは、実家の片付けの第一歩となります」
前出の62歳男性は緊急事態宣言を機に、同じく両親と離れて暮らす58歳の弟とも密に連絡を取るようになった。
「春まで弟に電話する機会は少なかったが、弟の奥さんが手縫いのマスクを作って送ってくれてきっかけができた。実家相続や処分は弟との話し合いが不可欠ですから、両親から得た情報はすべて共有しています。実家をどうしていくか、兄弟間のコンセンサスはだいたい取れたと思いますね」