真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

今の相場は「狂騒の20年代」の再来か 忍び寄る株価暴落の周期

株価が数年間で3~4倍になるとバブルのピークに

 ただし、100年前がそうだったように、株価上昇は永久に続くわけではない。この先、さらに株価が上昇し続けた先に、1929年の世界大恐慌のような世界的な大暴落が待っているかもしれない。例えばその時期は、単純に「ローリング20」を当てはめるとするならば2029年かもしれない。あるいは、10~15年周期で株価暴落が訪れる過去の傾向から考えれば、2015年夏に見舞われた「チャイナ・ショック」(今回のコロナ・ショックでは実はそこまで暴落していない)以降の周期で考えると、早ければ2025年にも暴落が来るかもしれない。

 また、日本の資産バブルや米国のITバブルなどの歴史を振り返ると、株価が数年間で3~4倍に上昇するとバブルはピークを迎えている。2020年3月中旬のNASDAQ総合指数の底(約7000ポイント)を起点とした場合、数年間で2万1000ポイント、あるいは2万8000ポイント程度まで株価が上昇した後、相場が大きく下落するシナリオも考えられる。前述の10~15年周期と併せて考えると、2025~2030年にかけて、NASDAQ総合指数が2万1000ポイント以上の水準に達した場合、相場の下落は近いと考えた方が良いかもしれない。無論、将来は不確かだ。複数のシナリオを念頭に置いて今後の展開を考えることが資産を守るために重要となるだろう。

 ここで「投資家目線」で考えてみたい。

 今後数年間は、さらに株価が上昇すると仮定すると、安くなったところで「押し目買い」をする人が勝つ可能性は高い。もっと言えば、大暴落というゴールが見えているなら、それまでの株価上昇を見越して、安いところで「押し目買い」をして、高くなったら売るという機動的な運用が必要かもしれない。その場合、じっくり腰を据えて行う「長期分散投資」ではなく、機を見て敏の「短期集中投資」を念頭に置いた方が得策だろう。

 いずれにせよ、コロナ・ショックは投資の世界の常識も大きく変えた。例えば、機関投資家の資金運用では、鉄道銘柄は「ディフェンシブ銘柄」の代表例とみなされてきた。景気後退局面でも需要が安定していて、業績のブレが少なく安定した利得が期待できたからだ。しかし、コロナによって世界的に人の動線が絞られた結果、旅客などの需要が減少し、鉄道各社の業績は厳しい。コロナ・ショックの発生は、鉄道銘柄=ディフェンシブ銘柄という“常識”が適切とは限らないことを確認する機会になった。

 今後も、私たちが慣れ親しんだ常識が通用しない相場環境が続くだろう。そうした変化に対応するためには、日々の相場の動きを冷静に確認し、主要投資家の心理が過度に強気になっているか、それとも過度に悲観的かを自分なりに把握する感覚を持つことが大切だ。

【プロフィール】
真壁昭夫(まかべ・あきお)/1953年神奈川県生まれ。法政大学大学院教授。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリルリンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。「行動経済学会」創設メンバー。脳科学者・中野信子氏との共著『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略』など著書多数。

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