人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第3回は、コロナ禍でも日本株が堅調な理由について分析する。
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菅政権発足から約3週間が経ったが、新首相自ら「安倍政権の継承」を標榜しているように、政策的な目新しさは見当たらない。「携帯料金引き下げ」や「デジタル庁創設」といった看板政策を見ても、正直、すぐにそれらが日本経済を大きく浮揚させる原動力とはなり得ない。新政権誕生に伴う「ご祝儀相場」というほど株価の上昇が勢いづかなかったのが、何よりの証左と言えるかもしれない。
ただ、それでも日経平均株価は2万3000円台を割ることなく、堅調に推移している。3月中旬には、株価1万6000円台にまで下落する「コロナ・ショック」に見舞われたが、それ以降、緊急事態宣言が出された最中でも株価は持ち直し、9月中旬まで日経平均株価は約7000円上昇した。今年の4~6月期の日本のGDP(国内総生産)が史上最悪(前期比年率換算で28.1%減)となるなど世界的な「コロナ不況」が進んでいるにもかかわらず、なぜ株価はこんなにも堅調なのか。
目に見える大きな要因は、日本株と連動性の高い米国株の好調にある。世界で最もコロナの感染者数が多い「感染大国」になってしまった米国では、株価が軒並み史上最高値を更新しており、それに引っ張られる格好で日本株も上昇しているのだ。
では、「感染大国」であるにもかかわらず、米国株はなぜ上昇しているのか。それは、行動経済学で言う「フレーミング効果」によるところが大きい。フレーミング効果とは、簡単に言えば、“思い込み”だ。端的に、人々が特段の根拠なく「株価は上昇する」と思い込むことが株価の上昇を支える“思い込み相場”である。株価が上昇している局面においては、このフレーミング効果はポジティブな材料に左右されやすい。
例えばその一つに、コロナウイルスのワクチンに関するニュースがある。「新型コロナのワクチン開発には時間がかかる」というものと、「新型コロナのワクチン開発は進んでいる」という大きく2通りの報道があるなか、株価上昇局面では、多くの人々はポジティブな材料である後者を受け入れたいという心理が働いた。
加えて、コロナで混乱に陥った金融市場を正常化するため、世界中の中央銀行が資金供給量を増やしたことで、株式市場にも大量の資金が流入している。とりわけ、米国の中央銀行に当たるFRB(米連邦準備制度理事会)は2023年まで政策金利を引き上げないことを表明しており、金利が低い状態が続くことで、少なくともあと3年は市場にマネーが溢れる金融緩和が続くと見られる。
これらが投資家の安心材料となって、「世界中の政府、金融当局が下支えしているから大丈夫」「ワクチン開発はすぐに進む」といった、必ずしも合理的とは言えない思い込みが広がり、「買うから上がる、上がるから買う」という強気な心理、あるいは根拠なき楽観の循環が株式市場で起こっているのだ。