人は仕事をしなくては生きていけないが、果たして仕事というものは「苦役」なのか。8月31日をもって47歳でセミリタイアをしたネットニュース編集者の中川淳一郎氏は最近、20~50代の働き盛りの人々と会った時に「羨ましい」と言われることが多いのだという。20代の若手であっても「仕事が辛いです」と言い、50代の人は「まだ私は定年まで8年もあるの~! あ~、羨ましい!」などと言う。そんな同氏が今、仕事の楽しさと苦しさについて、考察する。
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「やりたいことを仕事にする」って言葉がありますが、これは無理だと思います。だって、本当にやりたいことなんて、サーフィンや映画鑑賞、ゲームだったりするわけですから。もちろんプロサーファーや映画評論家、プロゲーマーはいますが、彼らだって激しい競争の中、神経をすり減らして仕事をしているわけで、単純に「楽しい」だけでは済ませられないのでは。趣味ってものは強制されてやるものではなく、余暇の中でやったり、気晴らしにやるもので、それを本業にしてしまうとかつての「楽しい」という感覚は失われてしまうものかもしれません。
私の仕事は「編集」「執筆」「PRのプランニング・実行」「ネットウォッチ」「講演」といったところです。コラムの執筆は楽しいと感じられますが、収入のかなりの割合を占める他の仕事については「苦役ではないけど、楽しくて仕方がない、というほどではない」感じです。
9月以降にお会いした方々は就職や転職を経験したうえで、今の仕事をやっています。自ら方向を選んだうえで現在の仕事をしているわけですから、そこそこ「好き」だったのだろうし、会社に採用され、その部署に配属されているのだから「向いている」はず。さらには、その仕事に初期の頃は希望も見出していたはずなんですよ。それなのに「早く辞めたい」「あなたが羨ましい」と来る。
一体これは何なんだろうか……。本来苦役ではないはずの仕事なのに、苦役だと感じてしまっている。私自身、完全に向いていない職業は分かっています。昔、喫茶店でウェイターのバイトをしたことがあるのですが、蝶ネクタイ付きの制服を着るのが嫌で仕方がなかった。こちらを客が呼ぶ時、オッサンが池の鯉を呼ぶかのごとく、顔の脇でパンパンと手を叩くのもイヤだった。「ご注文はお決まりでしょうか」といったかしこまった言葉を使うのもイヤだった。あとは、ほんの少し水をこぼし、それがスーツにはねてしまった時に「社長を出せ! このスーツは100万円もするんだ、弁償しろ!」などと言われたらどうしよう……。というわけで、私は接客業は何があってもやりたくありません。その後に始めた植木屋のバイトは、何しろ相手は職人と植物だけですから、これは場合によっては今後やってもいいかな、と思いました。