難しいのは“捨てたのか忘れたのか分からない物”です。使用済みでヨレヨレの靴下や下着、ボロボロのスリッパ、クチャクチャになったメモなど、多分不要であろう物に関しても、飲食物は数日、その他の物はある程度の期間、保管しています。過去には、かなり年季が入った安物のブラシを取りに来られた方がいて、『捨てられてしまっても仕方ないと思った』と、感謝の言葉を頂いたこともあります」
チェックインの時に連絡先を書いているのに…
忘れ物を取りに来た客から感謝の声を聞くのはホテルマンの喜びだが、中には「なぜ連絡をくれないのか?」「そのためにフロントで電話番号を書いているのに」と、苦情を言う者もいるという。これについてMさんはこう説明する。
「ウチのホテルでは、お客様が忘れ物をしても、基本的にこちらから連絡をすることはありません。お客様によっては、ホテルに泊まったことを家族などに知られたくない場合がありますから。最近は連絡先として携帯電話番号を書く方も多く、ホテルによってはそちらに掛ける所もあるようですが、ウチは携帯電話にも連絡しません。携帯電話に掛けても、本人が出るとは限りませんから」
不親切なようにも思われるが、連絡しないのもサービスの一環だという。時には、こんなシチュエーションもあったとか。
「頻繁に利用している方でも、お連れの方が普段と違った場合には、あえて知らないふりをしたり、『毎度ありがとうございます』といった挨拶を控えることもあります。ホテルを頻繁に利用していることがバレると困る場合もあるでしょうから、時には臨機応変な対応も必要です」
ホテルマンが“接客業の王様”と呼ばれるのも、これを聞けば納得できるかも。ただ、これらはいちいちマニュアル化できる類のものではないので、「全員に求められても困る」(Mさん)そうだ。